AIデジタルヒューマンという言葉を聞くと、「人の代わりに接客するもの」「受付や営業を自動化するもの」といった印象を持つ方もいるかもしれません。
しかし、企業で現実的に考えるべきポイントは、人を完全に置き換えることではありません。むしろ、よくある説明、案内、研修、FAQ対応を分かりやすく、同じ品質で、繰り返し提供できるようにすることです。
デジタルヒューマンは、見た目の新しさだけで判断すると失敗しやすい分野です。何を説明させるのか、どの範囲まで回答させるのか、どこから人が対応するのかを決めておくことで、企業にとって使いやすい仕組みになります。
AIデジタルヒューマンとは何か
AIデジタルヒューマンとは、音声、表情、画面上のキャラクター、会話スクリプト、知識ベース、AI問答機能などを組み合わせた対話型のインターフェースです。
Webサイト上で訪問者に案内するタイプもあれば、動画のように商品やサービスを説明するタイプ、社内研修で受講者に話しかけるタイプ、FAQや問い合わせの初動対応を行うタイプもあります。
重要なのは、デジタルヒューマンを「人間そっくりに見せる技術」とだけ捉えないことです。企業利用では、見た目よりも、説明内容の正確さ、会話の流れ、ブランドに合った話し方、回答できない場合の処理が重要になります。

企業で使いやすい主な場面
1. 公式サイトでの受付・案内
公式サイトでは、訪問者が「どのページを見ればよいか」「問い合わせ前に何を確認すればよいか」で迷うことがあります。デジタルヒューマンを使えば、サービス概要、よくある質問、資料請求、問い合わせへの導線を分かりやすく案内できます。
たとえば、初めてサイトを訪れた人に対して、会社のサービス領域、相談できる内容、問い合わせ前に準備するとよい情報を短く説明する使い方が考えられます。
2. 商品説明・資料説明
商品やサービスの説明では、担当者によって説明の粒度や順番が変わることがあります。デジタルヒューマンを使えば、基本説明を標準化し、顧客が必要な項目を選びながら理解できる画面を作れます。
これは営業担当者を不要にするという意味ではありません。むしろ、初回説明や資料の補足をデジタルヒューマンが担い、具体的な相談や条件交渉は人が対応する形が現実的です。

3. 展示会・店舗での案内
展示会や店舗では、限られた人数で多くの来場者に対応する必要があります。デジタルヒューマンを案内役として使えば、基本的な説明、受付前のヒアリング、対応担当者への案内を補助できます。
特に、同じ説明を何度も繰り返す場面では、案内の品質を一定にしやすくなります。一方で、複雑な相談や重要な商談は、必ず人につなぐ設計が必要です。
4. 社内研修・入社時オンボーディング
社内研修や新人教育でも、デジタルヒューマンは使いやすい領域です。会社の基本ルール、業務フロー、情報セキュリティ、ツールの使い方、よくある質問を、同じ内容で繰り返し説明できます。
研修担当者にとっては、毎回同じ説明を行う負担を減らし、受講者にとっては自分のペースで確認しやすくなります。特に多拠点や多言語の社員がいる場合、説明内容を揃えやすい点がメリットです。

5. FAQ・客服の初動対応
問い合わせ対応では、よくある質問への初動対応にデジタルヒューマンを使うことができます。営業時間、申込方法、必要書類、利用手順、トラブル時の確認項目など、定型的な内容を案内する用途です。
ただし、顧客の個別事情、契約、請求、クレーム、個人情報を含む内容は、人が確認する必要があります。デジタルヒューマンは、すべての問い合わせを完結させるものではなく、初動を整理して担当者につなぐ役割として考えると導入しやすくなります。
問い合わせの一次整理については、AIによるメール分類と問い合わせ窓口統合のような考え方とも相性があります。デジタルヒューマンが入口で内容を聞き取り、AI分類で担当部署へ回す形にすれば、顧客にとっても社内にとっても分かりやすい流れになります。

公開事例:AIアバターで研修動画の制作コストを下げたFive Below
デジタルヒューマンの価値を考えるうえで参考になるのが、米国の小売企業Five Belowの事例です。
Synthesiaの公開ケーススタディ「How Five Below uses AI video to scale training and cut production costs by 97%」では、Five BelowがAIアバターを使った研修動画制作を進め、動画制作コストを大きく下げたことが紹介されています。
同ケーススタディによると、従来の方法では1本あたり約12,000ドルかかっていた研修動画の制作コストが、Synthesiaを使うことで約400ドルになり、制作コストを97%削減できたとされています。また、同じ予算で制作できる動画数も、5本から100本以上に増えたと説明されています。
もちろん、この数字はFive Belowの研修動画制作という条件での事例です。すべての企業、すべてのデジタルヒューマン導入で同じ効果が出るわけではありません。ただ、社内研修や商品説明のように「同じ内容を何度も、分かりやすく、更新しながら伝える」業務では、AIアバターやデジタルヒューマン型の説明画面がコスト削減につながり得ることを示しています。
本当の価値は「人らしさ」より標準化にある
デジタルヒューマンの価値は、見た目が人に近いことだけではありません。企業にとってより重要なのは、説明、接客、研修、FAQを標準化し、繰り返し使える状態にすることです。
人による説明は柔軟ですが、担当者によって内容が変わることもあります。忙しい時期には、説明が短くなったり、重要な注意点が抜けたりすることもあります。
デジタルヒューマンを使うことで、基本説明は一定の品質で提供し、個別対応が必要な部分は人が担当するという分担がしやすくなります。多言語での説明にも展開しやすく、外国人顧客や外国人社員への案内にも応用できます。
導入前に注意すべきこと
デジタルヒューマンは便利な一方で、導入前に整理すべき点があります。
まず、スクリプト設計です。何を話すのか、どの順番で説明するのか、回答できない質問にどう対応するのかを決める必要があります。
次に、ブランドの話し方です。企業サイトに置く場合、話し方が軽すぎると信頼感を損ないます。反対に、硬すぎると利用者が質問しにくくなります。業種や顧客層に合ったトーンを設計することが大切です。
また、プライバシーと情報管理も重要です。問い合わせ内容や社内研修の質問には、個人情報や社内情報が含まれる場合があります。どのデータを入力してよいか、ログをどう扱うか、外部サービスを使う場合の条件を確認する必要があります。
さらに、誤回答への備えも必要です。AIが回答する範囲を限定し、重要な内容は人に引き継ぐ仕組みを用意しなければなりません。導入後も、FAQや商品情報、研修内容を更新し続ける運用が必要です。
この点は、AI導入で失敗しやすい会社の共通点でも触れているように、技術を入れる前の業務設計が重要です。
小さく試すための進め方
最初から大規模なデジタルヒューマンを作る必要はありません。まずは一つの用途に絞ることをおすすめします。
たとえば、公式サイトのサービス案内、社内研修の一部、FAQの初動対応など、低リスクで効果を確認しやすい範囲から始めます。その上で、利用者の反応、質問内容、対応時間、担当者の負担変化を確認します。
小さく試し、スクリプトや知識ベースを改善し、必要に応じて範囲を広げる。デジタルヒューマンも、他のAI導入と同じく、業務整理と運用設計をセットで進めることが大切です。最初のテーマ選びについては、中小企業がAI活用で最初に選ぶべき業務とはも参考になります。
SMARTWAYが支援できること
SMARTWAY株式会社では、AI導入の前段階として、業務整理、利用シーンの設計、知識ベースの整理、社内研修を支援しています。
デジタルヒューマンを導入する場合も、まず「誰に何を説明するのか」「どの情報を参照させるのか」「どこから人が対応するのか」を整理する必要があります。見た目の制作だけでなく、業務フロー、FAQ、説明スクリプト、運用ルールを整えることで、企業にとって使いやすい仕組みになります。
公式サイトの接客、商品説明、社内研修、FAQ対応を標準化したい場合は、まず現在の説明内容や問い合わせ内容を棚卸しするところから始めることをおすすめします。
公開日:2026年6月29日
